ハウジングプア

この本は平山さんの論文と一緒に課題にだされた本。本書は湯浅誠さんで有名な〈もあい〉で活動をされている稲葉剛さんが、「ハウジングプア」という概念を提示し、「暮らしの貧困」という問題の全体像を照らし出そうというものです。

ハウジング・プア

ハウジング・プア

ネットカフェ難民からハウジングプアへ
 ネットカフェ難民という言葉は日本テレビ系列の『ネットカフェ難民』が大きな社会的反響を呼んだことにより、その後24時間営業のファーストフード店で夜を過ごす人を「マック難民」、個室ビデオ店に宿泊する人を「個室ビデオ店難民」と呼んだり、「○○難民」という言葉がはやった。しかし、この言葉の本質は「ワーキングプア状態にある人が安定した住まいを確保するのが困難な状況にあること、いわばハウジングプアというべき状況から抜け出せないこと」、という難民性が問題の核心であることを主張している。

◆ハウジングプアとは
 ハウジングプアとは本書にて「貧困ゆえに居住権が侵害されやすい環境で起居せざるをえない状態」とし、大別して①家はあるが居住権が侵害されやすい状態(入居者の居住権を不当に制限する内容の契約による賃貸借住宅など)、②屋根はあるが家が状態(ドヤ、病院、ネットカフェなど)、③屋根がない状態(路上、公園など)と分けることができる。また、①→③で住まいの不安定性は増大する。
 ハウジングプアは経済的不安定さと連動して起こる、つまり非正規雇用者など安定した職を持たない人が陥りやすい状態にあるため、政府は派遣労働者を不当に解雇する「派遣切り」への規制や、やネットカフェ難民を対象とした調査などを行っている。
 しかし、稲葉氏はネットカフェ難民、路上生活者などとハウジングプアを分断化した政策や調査を批判する。なぜなら、彼らハウジングプアは常にネットカフェ難民や路上生活者であるわけではなく、ある日は野宿、ある日は友人宅、ある日はネカフェと転々しているためである。

◆ハウジングプアはなぜ広まったのか
 ハウジングプアはなぜ広まったのか。ワーキングプアと並行してハウジングプアは進行したが、近年の特徴はそれが派遣労働者を中心とする非正規雇用者の中かから、そのような状態に陥る人が増加していることである。
また住宅制度や市場の領域でも変化がある。それまで借主が圧倒的有利にあった賃貸借制度を改め、定期借家制度が2000年からスタートし、それに伴って参入してきた家賃保障会社や悪質な不動産業者の参入である。家賃保障会社とは保証人が見つからない人に対し、保障会社の審査を受けて合格すれば入居が可能となるメリットを持つ一方、家賃が少しでも滞納すると無断で部屋に侵入する、鍵を付け替えるなどとして立ち退きを迫る傾向がある。このような貧困ビジネスを定期借家制度が喚起したと本書では述べている。
 このような悪質な民間業者、つまり貧困ビジネスが広がったのには、公的介在の不在がある。貧困には「経済的な貧困」「人間関係の貧困」があり、家賃保証会社などは後者を狙って伸びてきた業者である。著者は、行政は人間関係の貧困を「大人だから自力で解決すべき問題」とあしらわずに、それをつけ狙った悪徳業者を規制する役目があると主張している。

その後、ハウジングプアに対する行政の支援策、ハウジングプアと生活保護制度、高齢ハウジングプア問題、ハウジングプアに対する民間の問題と続いているが、細かくなるため終章「ハウジングプアをなくすために」を紹介する。

◆ハウジングプアをなくすために
ハウジングプアをなくすためには公的住宅の少なさが問題の根源にあり、その対処のために(1)住宅政策の一元化とハウジングプア問題の全体像の把握、(2)公共住宅政策の拡充、(3)「追い出し屋」への法的きせいと公的保証の創設など5点を提案している。

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先にも書いた平山さんの「標準的ライフコースを歩む人たちを優遇する傾向」が戦後の住宅政策に一貫してあるという指摘を引用し、著者もこの標準コース前提の施策から多種多様なライフコースを歩む人に対する「安心して暮らせる住まい」の保障へと転換を著者は求めています。
このように住宅セーフティネットを張ることを「わがまま」と捉える人も(某都知事のように)いますが、標準コースから外れる=セーフティネットを外されるというのは、そのライフコースを歩むよう強要し自由を奪っているともいえないかと考えさせられました。