住宅政策のどこが問題か

住宅政策のどこが問題か (光文社新書)

住宅政策のどこが問題か (光文社新書)

住宅について勉強しているんだから読んだ方がいいと思いながらなかなか読めなかった1冊・・・ですがこの著者の論文が大学院の授業で取り扱われたのをきっかけに、きっちり読みました。

本書は、持家取得というメインストリームを政府が誘導して形成してき、中間所得層を優遇してきた一方で、賃貸住宅への施策はほとんどないなどといった日本の住宅システムの構造をわかりやすく分析し、その改善の必要性について述べられています。

◆住宅政策の二重構造
 日本の住宅システムは、中間層へ持家を持たせることへ政府の援助を集中させ、中間層/低所得者、持家/賃貸といった「有利/不利」を形成してきた。つまり、標準的ライフコースを歩む「大企業に所属し家族を持つ中間所得層」である人々を優遇し、低所得であり単身者である人々に対しては残余的な政策しか用意しないということである。後者は限られた公的賃貸住宅か、劣悪な物的水準に対して賃料が割高な民間賃貸かと住まい方が非常に限られている。
 そのため、人々はメインストリームへ向かうよう誘導されているといえる。しかし、このメインストリームは初婚年齢の上昇、未婚者の増大、雇用の不安定化によって揺らぎ始めている。さらに政府は、メインストリームを形成してきた保守的住宅政策から新自由主義的住宅政策への転換を求めているが、住宅融資を受けることができるかどうかは信用力によって決まるため、低所得者つまりメインストリームの外側の人々に対しての支援ではない。むしろメインストリームの外から内へと入ることが困難になったといえる。

◆住宅セーフティネットをつくるためには
1)垂直な不公平を解消
 戦後復興〜成長期において、公共住宅はメインストリームに入るために、若い単身者が一時的に利用する仮の住まいと捉えられていた。しかし単身者がそのまま年をとり、「単身者に対する仮の住まい」という役目が重要でなくなり、「救済に値する」低所得者に対する住宅として利用されるようになってきた。「救済に値する低所得者」とは高齢者、障がい者、母子家庭、最近ではDV被害者やホームレスなどカテゴライズされた人々のことである。
 日本のこのカテゴライズされた人々を対象とする住宅政策は、同一階層(カテゴリー?)つまり水平的な不公平を解消するが、上位階層と下位階層という垂直の不公平は解消できない。カテゴリーに属さない(所得が対象基準を超えている、稼働年齢など)ためにレベルが低い民間賃貸を利用している人はたくさんいる。
2)国と地方の役割の見直し
 地方分権によって、住宅政策のあり方についても地方政府にゆだねられることになった。しかし、地方政府は低所得者向けの住宅をあまり供給しない傾向にある。それは公営住宅建設・管理の財政負担は大きく、大量供給すると低所得者を呼び寄せさらに負担が大きくなるからである。また低所得者のための財政投入の増大は、地域の中間層の不満を増大させることに繋がる。
 まとめて、低所得者への住宅セーフティネットの建設・管理には中央政府財政支出が必要となる。その中で何を市場に任せ、何を地方政府に任せればいいのか、合理的判断が求められていると締めくくられている。


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他にも2章に書かれていたジム・ケメニーの住宅システム論を用いて日本の住宅システムを相対的に位置づけたり、住宅政策と政治の関係なども非常に興味深かったです。
住宅・住まい方について興味がある私ですが、基本的に考えることは都市計画というマクロ的視点から住宅をどうするかとか、住宅ストック流通の活性化をどうしたらいいかとかで「セーフティネット」として考えることはありませんでした。「所得をちゃんと得てから住宅をゲットすればいい」と捉えてきた。
だけど、ライフスタイルの変化や雇用の変化によって持家取得が住み方のメインストリームではあり続けないだろうと感じるし、住宅の資産価値も下がり続けている中、もっと幅広く住宅を選択できる環境づくりの必要性を感じました。

その一方で、住宅と土地を資産化すようと捉えている日本で借家がなじむのか、
住宅政策の中央-地方の役割分担の状態や、民間賃貸への援助政策が新しくできていないかとか気になる(この本出たのが2009年3月で政権交代前だし)。