児童虐待について考えてみる

最近都市論ちっくな話が多かったけど、先月発覚した大阪の二児置き去り事件から「虐待」について考えるようになって、次の本を読みました。2006年と少し古いため法改正が当時から重ねられているかもしれませんが、最近の虐待に関する報道の多さからあまり解決できていないんじゃないかと思っています。そんで今回はその感想。

児童虐待―現場からの提言 (岩波新書)

児童虐待―現場からの提言 (岩波新書)

本書の著者は児童相談所(以下児相)に勤める職員で、本書ではその現場からの問題提起が述べられています。

大きく分けて(1)虐待についての定義と法改正について、(2)虐待の発生原因、(3)虐待対応を巡る現状・問題に分けることができます。特に3つ目の対応に関することについてまとめ&考察です。よく児相は「虐待通報は受けていたが最悪の事態になってしまった」「児相がもっと頑張れば子どもは救えた」と叩かれていますが、本当に児相の努力不足なのか、努力だけではどうしようもない構造的問題があるんじゃないのか、児相が一時保護したところで問題は全て解決するのか…前々から思っていた疑問も含めて、以下おおざっぱな。

【法制定について】
児童虐待の防止などに関する法律が成立したが、実態は法的拘束力が伴わないもの。近隣住民や学校・病院などは通報が義務付けられているけどそれを怠った場合の罰則、児相による調査を拒むことの罰則がない。

【二つの権力の対立と司法関与について】
・ 立ち入り調査と一時保護は子供を虐待から守る第一歩であるが、立ち入り調査には「プライバシー侵害」問題もあるし、法的装備をしない現在の児相(立ち入りなどには児童相談長の判断に任せている)にはこれを突破するには親を説得するしかない。しかしたいていの親はここで猛烈に反抗して対応に応じないということもある。さらには大阪の二児置き去り事件のようにマンション管理者が部屋を開けないという希望に応えないということもある。
・ ここには子供の生命に関わる法的侵害とプライバシー侵害という2つの権利の衝突。この問題を解決するには司法が関与する必要がある。ただし司法による関与を法定化するには次の課題がある。児相に立ち入り調査を適切に、速やかに司法に申し立てるだけの余裕がないという。またそれを受ける側である家庭裁判所にしても、保護者の意に反した職権での一時保護や立ち入り調査の全てに対して申してを受け、タイムリーに的確な判断を下す態勢が整えられていない。

児童養護施設の問題】
・ 虐待は「発見、保護」をすればいいだけでなく、虐待を受けた子供に対するケアが必要だけど、児童心理司が少なすぎる。さらに児童養護施設も予算不足等のために、狭い部屋での共同生活が余儀なくされる。しかも職員が少なく子供に目を配ることができず、心理ケアをする専門職を持つ人もあまり配属されていない。子供たちはたださえ精神的に不安定でそれに対するケアもされないんだから、そんな精神的に疲れる場所で暴力やいじめが起こるのは必然的。
ざっとこんな感じです。

個人的感想
・ 本書で示されたように、児相だけに任せておける問題ではなく司法や警察の力が必要。ただ法的に関与を定めるだけではなく「誰が・どんな場合・どのようにして」強権力を発動させるか等システム構築が必じゃないかと思う。(ある程度のマニュアルは各自治体ごとにでも必要じゃないか)
・ 強権力発動の法的根拠を裏付けるだけでなく、子供・親双方に対する専門家によるケアが必要じゃないか。それを専門知識を持たない児相職員に任せるのは大変だろう。児相は虐待だけでなく子どもに関する問題全般を扱っているんだからすっごい忙しいだろうなと思う。もっと「児童に関する問題を受け付ける窓口」「親との対話」「子どもへのカウンセリング」「親へのカウンセリング」などに専門者を決めて分業する、他組織との連携のシステム構築とマニュアルを作成する。
児童養護施設が子どもをケアする場所として色々不十分みたいだけど、それは予算不足というのがあるんだろうな。子供手当で裕福な子供にもお金が落とされるよか、家から出ざるを得ない子供に手当してほしい。

「虐待は昔から蓄積されてきた問題だ」という言葉がとても印象深かった。確かに地域の人間関係が希薄になることで親が孤立しやすい環境にあること、社会保障制度が「夫は外に妻は家に」という家族構造を想定しているため、シングルマザーの育児に対する経済的支援が少ないことなどによるた親への精神的・経済的ストレスや、虐待被害者が加害者になりやすいというが被害者に対するケアの不十分さなどなどを考えると、国の体制が前提とする社会環境が変化に対応してこなかったこと、さらに子どもたちへのケアを十分にとってこなかったことのツケなんじゃないかと思う。

そういえば、日本って精神的傷害へのケアってあまり重視していないのかなと思う。親が養護学校で働いているんだけど、教員さんがうつになりやすいらしい。本書でも児相職員が過酷な労働環境のために最悪自殺にまで追い込まれるそう。職員さんが気軽に相談できるカウンセラーを雇うよう、法的規定ってないのかな。

まぁ、私は児童虐待についての本は初めて手に取ったんで、わからないことばかりです。
もし現状は違う、読み間違いがある、ここがわからないなどあればお気軽にコメントください!!